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今村遼佑「くちなしとジャスミンのあいだに」

現代美術作家の今村遼佑さんは2016年夏から1年間、ポーラ美術振興財団の助成を受けてワルシャワに滞在。滞在中は国際的に活躍するポーランド作家のミロウワフ・バウカ(Mirosław Bałka)のゼミに通いグループ展に参加したり、ワルシャワ美術アカデミーの学生とのワークショップや、Arman Galstyan Galleryで二人展を行うなどしてきた。

今回、帰国後初となる個展「くちなしとジャスミンのあいだに」が京都にて12月12日(火)から17日(日)まで開催。個人、他者、環境をめぐる感覚と記憶をテーマにワルシャワ滞在中に制作された映像等をくみあわせたインスタレーションが展開される。

ワルシャワの街の香水屋を訪れ、ジャスミンの匂いの香水を集めていく映像。2017年5月Arman Galstyan Galleryでの展示風景より。©️Ryosuke Imamura

ワルシャワの街の香水屋を訪れ、ジャスミンの匂いの香水を集めていく映像。2017年5月Arman Galstyan Galleryでの展示風景より。©Ryosuke Imamura

前回の個展「降り落ちるものを」(2016)で登場したのは”沈丁花の匂い”。季節は夏になり、場所はポーランドにうつった。くちなしの匂いが好きだという今村さんは「ジャスミンの匂いがくちなしの匂いに似ていること、その匂いから想像するものは現地の知人たちとの間に差はあるが、しかしその違いを含みながらも、何かを共有できた気がした」という。そこから発想を得て制作した映像では、今村さんがまるで蜂のように、ジャスミンの香水を求めてワルシャワ中の香水屋を渡り歩いていく。

自身が映像出演するという作品はいままでになかった。これに至ったのは、ウジャドゥスキー城現代美術センターでのワークショップと展示で自己のパフォーマンスが求められたり、バウカのゼミでの課題のプレゼンテーションでもある種のパフォーマンスを実施するなどといった、ポーランド滞在中での活動経験が影響しているという。

ワルシャワの街のネオンサインを撮り集め、コラージュのように文字を再構成したテキスト。様々なものの合間にある境界の曖昧さについて語る。©Ryosuke Imamura

ワルシャワの街のネオンサインを撮り集め、コラージュのように文字を再構成したテキスト。様々なものの合間にある境界の曖昧さについて語る。©Ryosuke Imamura

もうひとつの映像ではワルシャワの街の中のネオンが登場する。今までにも「辞書と街灯」 、「森と街灯」といった作品があるように、街灯は今村さんの作品に欠かせないモチーフのひとつ。ここでは、ワルシャワの街中にあるネオンと街灯がキャストとなる。

戦争中にほぼ完全に破壊されたワルシャワ。戦後共産主義時代に広告規制が厳しいなか、グレーの街並みのなかでネオンだけが色鮮やかだったといわれ、50年代から70年代は「ネオンライトの黄金時代」と呼ばれる。90年代に入り民主化とともに、ネオンサインは終息を迎えることになるが、21世紀になってから、アヴァンギャルドなネオンサインの美しさが見直される。そして現代のワルシャワの街中ではネオンサインのデザインが復刻、あるいは修復され、古いネオンは美術館へ収集されるようになっている。

2017年5月Arman Galstyan Galleryでの展示風景より。©Ryosuke Imamura

2017年5月Arman Galstyan Galleryでの展示風景より。©Ryosuke Imamura

今村さんは、ワルシャワの夜の街を歩きながらネオンサインに惹かれ、街中のネオンの写真を撮り集める。そしてコラージュのように文字を再構成し、モノローグのようなテキストが映像の中に浮かびあがる。

会場では実際に映像の中で集められた香水が散布され、空間に入ってきた観客は、匂いをまず感じながら、その中で作品を見始めることになるという。これは<嗅覚により他者と共有できるもの>をベースにしながら作品を鑑賞するという形を意図しているもの。会場に実際に訪れたひとだけに残る感覚や匂い、それらの体験は記憶となり、何気ない日常に不思議な感情を呼び起こしてくれるものになるに違いない。

今村遼佑「くちなしとジャスミンのあいだに」
場所:アートスペース虹
期間:2017年12月12日(火)~17日(日)
開廊時間:11:00 〜 19:00 (最終日は18:00まで)
所在地:京都市東山区三条通神宮道東入ル東町247

今村遼佑(Ryosuke Imamura)
1982年京都府生まれ。現代美術家。more info