失われたアートの復活ーエヴァ・ユシュケヴィッチ(Ewa Juszkiewicz)の新作

奇妙なマスクや歪んだ顔、19世紀の古典的な宮廷肖像画を再解釈し、一度みたら忘れられない独特の肖像画シリーズが記憶に新しい、エヴァ・ユシュケヴィッチ(Ewa Juszkiewicz)

ワルシャワのギャラリーlokal_30にて開催中のグループ展’”Gauguin’s Syndrome(ゴーギャン症候群)”では、エヴァ・ユシュケヴィッチの新しいシリーズーー戦争中に盗まれた、もしくは焼失され行方不明となった芸術作品のアーカイブ写真を基に描かれたーー作品をみることができる。

(写真左)Untitled, 2016 Oil on canvas/40 × 30 cm 高さ19cmのドリスデンのザクセン磁器の小さな像は、1872年以降に製作されたもの。1943年にパリもしくはアムステルダムにて消失。(写真右)Untitled (after Otto Freundlich),ポーランド出身の画家・彫刻家オットー・フロイントリッヒ(Otto Freundlich/1878-1943)は、ピカソやブラックとならびヨーロッパの非具象派芸術の先駆者でした。作品の大部分はナチスによって破壊され、1943年にポーランドの収容所で亡くなりました。
(写真左)Untitled, 2016 Oil on canvas/40 × 30 cm  高さ19cmのドリスデンのザクセン磁器の小さな像は、1872年以降に製作されたもの。1943年にパリもしくはアムステルダムにて消失。(写真右)Untitled (after Otto Freundlich),画家・彫刻家オットー・フロイントリッヒ(Otto Freundlich/1878-1943)は、ピカソやブラックとならびヨーロッパの抽象芸術の先駆者。作品の大部分はナチスによって退廃芸術とみなされ破壊され、さらにユダヤ人であったオットーは1943年にポーランドのマイダネク収容所で処刑される。

失われた作品は絵画だけでなく、オブジェや彫刻も含まれる、それらの画像は膨大な過去の写真アーカイブから、とくにエヴァ自身の個人的な経験と関連するものを選び、イメージを拾いだしながら”失われたアート”を再解釈。作品が失われた状況より、むしろ作品のもつオーラを復元することにフォーカスしたという。

戦前からポーランドの前衛芸術家として活動していたカタジナ・コボロ(Katarzyna Kobro1898 - 1950 )の彫刻Nude(4)をもとに描かれた。作品は1931-33の間に製作されているが、おそらく展示されたのは、1932-34の間のみで、ほかの彫刻作品とともに消失している。
戦前からポーランドの前衛芸術家として活動していたカタジナ・コボロ(Katarzyna Kobro1898 – 1950 )の彫刻”Nude(4)”をもとにして描かれた。コボロの彫刻は1931-33の間に製作されているが、おそらく展示されたのは、1932-34の間のみで、ほかの彫刻作品とともに消失している。

下の写真でみられるのはマックス・ペヒシュタイン(Max Pechstein, 1881-1955) の未だ行方不明となっている作品「ぶどうの収穫」をもとにして描かれたもの。

Untitled (after Max Pechstein), 2015 Oil on canvas/170 × 150 cm
Untitled (after Max Pechstein), 2015
Oil on canvas/170 × 150 cm

この作品の所有者は裕福なユダヤ人の靴メーカーだった、アルフレッド・ヘス(Alfred Hess 1879-1931)。ヘス家では4,000以上の現代美術コレクションがあり、ほとんどの作品はアーティスト自身から直接購入していました。1931年、アルフレッドの突然の病死と同時に、ナチス政権の締め付けが厳しくなります。美術コレクションの管理は、残された妻テクラと息子のハンスが引き継ぎますが、1933年、ベルリンにあるハンスの自宅はナチスにより略奪されます。その後、ハンスはパリ、ロンドンへと移住を余儀なくされ、母親のテクラは美術作品を守るためにドイツに残ります。

1933年、テクラは美術作品をスイスのバーゼル私立美術館に送ることでコレクションの大部分を保護することができました。当時のゲシュタポは現代美術を「退廃芸術」とみなし押収していました。1939年、ドイツ当局は、テクラに美術作品を海外から戻すよう脅し、作品のいくつかは不法に販売されドイツ外に密輸されます。テクラはケルンの美術連合を頼り、残りの美術作品とともにロンドンへ移住します。1947年に連合に連絡をとると、作品の貯蔵施設は爆撃され除去され、もしくは盗まれ、ほとんどが失われていました。テクラのお気に入りだったーーマックス・ペヒシュタインの「ぶどうの収穫」も未だ行方がわからないままーーとなっています。

喪失とその背後にあるストーリー、彼女自身の個人的な経験と重ね合わせて選んだ失われた作品。芸術のもつ普遍性、トーンの低い色彩のなかに隠された、激しさと美しさと静かな存在感。失ったものを復元するという行為は、ノスタルジックな忘却との闘いでもあり、破壊と創造の間にある緊張感が強く表現されている。展示は2016年11月23日まで。

FILIP BERENDT, EWA JUSZKIEWICZ, KATYA SHADKOVSKA Gauguin Syndrome 
2016年9月23日から11月23日まで
lokal_30
Wilcza 29a/12 (5th floor)
Warszawa

また、こちらの書籍『ポーランドの前衛美術 生き延びるための「応用ファンタジー」』は、日本で唯一の戦後のポーランドにおける前衛美術から21世紀の現代美術までを紹介する稀少な本。歴史に翻弄されながらも優れた作家を生み出したポーランド。丹念に考査されている本書は、前衛美術の軌跡をたどり、学びたいひとにもおすすめしたい保存版ともいえる。また、今回の展覧会でもこちらの本を読むことで、より一層深く面白く作品をみることができる。

polishavantgardeart

ポーランドの前衛美術     生き延びるための「応用ファンタジー」
著者: 加須屋明子
出版社: 創元社
定価: 3,672円 (税込)